熱いサウナ室の中で汗だくになりながら蒸気を操り、サウナーをととのいへと誘う熱波師。昨今のサウナブームを語る中でも、この熱波師の活躍は特に注目すべき点です。
時代を切り開いてきた先駆者から新進気鋭の若手まで、さまざまな熱波師の活動が顕著な中、サウナランドWebではこうした熱波師にフォーカスを当てて紹介していきます。
今回は、10年以上の熱波歴を持つ、芸人で熱波師の箸休めサトシさん。ホームサウナのスカイスパYOKOHAMAで繰り広げられるエンタメ型アウフグースは唯一無二のコンテンツとして、多くのサウナーたちを虜にしています。
そんな箸休めサトシさんのアウフグースに対する思いやこだわり、今後の展望などを前編後編に分けてお届けします。
聞き手:浅見 裕(サウナランド Web編集長)
箸休めサトシ
・スカイスパYOKOHAMA兼アウフグースプロフェッショナルチーム所属
・2019年熱波甲子園秋覇者(おふろの国チーム)
ストーリーに沿って風やアロマを変え五感全てで楽しめるサウナアトラクション「エンターテイメント型アウフグース」が特徴。
【熱波、アウフグースの表記について】
本記事では便宜上、以下のルールにて記載しています。あらかじめご了承ください。
・熱波を送る「人」、アウフグースをする「人」=熱波師
・蒸気を発生させてタオルを仰ぐプログラムそのもの=アウフグース
・タオルを仰いで送るもの=熱波
お客さん一人ひとりの目を見ながら作るエンターテイメント型アウフグース
浅見:今日はよろしくお願いします。実は、初めてサトシさんのアウフグースを体験しました。めちゃくちゃ良かったです!
サトシ:そうだったんですか。いきなりトリッキーなアウフグース※を受けましたね(笑)。
※トリッキーなアウフグース=中島みゆきの糸(Bank Bandカバーヴァージョン)を流しながら、ゆっくりと仰いでいたと思ったら、突然プロレスラーの入場曲が流れて、激しいアウフグースになる演出
浅見:ゆったりめの音楽で、静かな風を送る感じだったので「深夜だからそれも逆に良いよなぁ〜」と思ったらいきなり激しい曲がかかって(笑)。
サトシ:普通に終わるわけないじゃないですか(笑)。いや、これもね、ちゃんと考えてる構成なんですよ。
浅見:おお、そうなんですか。
サトシ:最初ゆっくり始めるじゃないですか。で、だんだんと熱くなってつらくなってきますよね?
浅見:はい。
サトシ:そうすると、ヒーリングミュージックだけではキツくなってくるんです。最初はゆったり曲を聴きながら「あ〜気持ちいいなぁ」ってなっても、だんだん熱くなって静かな曲と反して自分の体は「あー! 熱い! 死ぬ死ぬ死ぬ〜」ってなるじゃないですか。そこで「その先」を目指すためにテンション上げていくんです。
浅見:なるほど。室温と体温の上昇に合わせてテンションも上げていかないと、ついていかないってことですよね。
サトシ:ついていかないんです、お客さんの気持ちが。ずっとヒーリングだけだと、お客さんは「熱っ!熱っ!アツ〜!」ってなってるのに、「では…静かにやっていきますね…」とか言われて「あー、しんどい」ってなる(笑)。
浅見:アウフグースの構成もお客さん目線で色々考えられているんですね。サトシさんのパフォーマンスのこだわりポイントって、どんなところがあるんですか?
サトシ:結構単純ですよ。お客さんの健康とかはもちろん、一人ひとりの目を見て「この人、今どう感じてるかな」と、お客さん本位でやることです。
サトシ:あとは、サウナ室の空気感をすごく気をつけていますね。「今日はエンタメ色だな」とか「今日はヒーリング系が良いな」とか、状況に応じて表現できる引き出しがあるのは、自分の中ではこだわりポイントですね。
だからサウナランドフェスの時は、普段では絶対流さないEDM(アップテンポのダンスミュージック)を用意してありました。
浅見:なるほど。その空気感ってどの時点で確定するんですか? 「今日はこうだな」みたいに。
サトシ:うーん…なんだろうなこれ。言葉で表すと何ですかね? うーん…。例えば、フェスみたいなのは明らかに楽しみに来てるじゃないすか。そういう時はテンションを上げたいと思いますし。あとはお客さんの層ですよね。ちょっと年配の人が多かったらヒーリング系の曲を流したりとか。
浅見:なるほど。でも、施設サウナだと集まるお客さんってその時にならないとわからないじゃないですか。
サトシ:始まる5分前にサウナ室の換気にいって「あ、こういう感じか」っていう空気感を一瞬で感じて、披露するプログラムを変えますね。この層だったらスターウォーズ※が良いかなとか、ゆっくり目がいいかなとか。10年以上熱波やってるんで、すぐにわかります。
※スターウォーズ=箸休めサトシの定番ショー。映画スターウォーズのストーリーに沿って「ととのいのかなた」を目指す。他にも、カリブの海賊やドラゴンクエストのオマージュなどもある
浅見:すごいですね! サトシさんは、スカイスパさん以外の施設でもアウフグースをやられるじゃないですか。施設によって勝手が違ったりするんですか?
サトシ:めちゃめちゃ違います、これは。蒸気の回り方もそうだし、それこそ熱波知らない、アウフグース知らないお客さんが多い施設だと、「そもそもロウリュとは、アウフグースとは」って、説明が多くなったりします。
浅見:ああ、なるほど。
サトシ:あと、どのくらいのロウリュで、どの程度熱くなるとかも気にしてて。本番の5時間前とかに入って、サウナ室でちょっとアロマかけさせてもらってどういう風に蒸気が回っているとかは必ずやってますね。
浅見:そこまで徹底しているんですね! 蒸気のロケハンだ。
サトシ:リハーサルは自分の中で何度もシミュレーションしますからね、早めに入って。なんならその施設のスタッフさんがアウフグースやっているのを見るのが一番わかりやすい。
浅見:あー、なるほど。
サトシ:こういう風に蒸気が回るのね、こんな感じの熱さなんだね、とか。
浅見:やりやすい、やりづらいってあるんですか。
サトシ:ありますよ。やっぱもう、これこそ日本のサウナ室だとそもそもサウナストーンがないところも多いですし。ストーブに石が積まれてなければ、バケツでやることも(笑)。
浅見:え? どうやるんですか?
サトシ:なんかフライパンに石を乗せて、コンロで地道に熱するんです。
浅見:ああ! アウフグース待ってる時に「サウナストーン通りまーす」って運ばれてくるやつですね。
サトシ:そう! 熱した石をバケツ山盛りにして、サウナ室に持っていって。で、それにロウリュをして、ちょっとしか上がらない蒸気を一生懸命あおいで(笑)。そういう時はもうテンションですよね。
「どうですか!熱いですか。熱いですよね!めちゃ熱くないですか?」ってごまかす。全然蒸気上がってないから(笑)。
浅見:(笑)。
サトシ:だから、どんな場所でも気持ちいいアウフグースができるように、タオルさばきも練習しますね。場所ごとに特徴があるので。
熱波師とマネタイズ
浅見:なるほど。ちなみに「熱波」「アウフグース」「ロウリュサービス」など、日本ではタオルを使って仰ぐパフォーマンスにいろいろな言い方がありますが、サトシさんの捉え方を教えていただけますか?
サトシ:まあ、場合によってはこれ、物議醸しますから(笑)。でも、僕にとっては同じなんですよね。直線的な熱波を送るのが熱波師で、表現者ぽくタオルを回すのがアウフグースみたいな定義もあるみたいですが、僕としては、お客さん本位でやっていければいいんじゃないかなって思います。
浅見:なるほど。
サトシ:そもそも、こういう熱波師という職業が日本になくて、職業として成り立つようになっていく段階だからこそ、いろんな解釈とか定義ができるんだと思います。
僕は一緒にしていきたいなって。同じですから。
浅見:熱波師の方は、施設に所属するケースがほとんどだと思うんですけど、フリーとか専門でやっている方ってどれぐらいいるんですか。
サトシ:フリーは今のところ、レジェンドゆうさんや大森熱狼さん、あと五塔熱子ちゃんとかで、ほんと3、4人ですね。熱波師だけで食べていけてる人って、ほとんどいないです。
浅見:施設に呼んでもらってアウフグースをすることによって収入を得て、それだけで生活をしている。
サトシ:大森熱狼さんとかはスポンサーもいますね。Tシャツにスポンサーさんのブランドを入れたりして。
浅見:あー、もうアスリートですね!
サトシ:僕らもアウフグースプロフェッショナルチーム※も、今後はそうしていきたいです。スポンサーさんについてもらって、もっと言えばプロ化してちゃんとサポーターさんがついていくとか、いいなと思っています。
※アウフグースプロフェッショナルチーム=熱波師・アウフギーサーの活動を行うチーム
浅見:なるほど。
サトシ:スポンサーさんがついてお金もらって、それなりの表現をしてお客さんを楽しませるエンターテイメントができるようになったら本当のプロですよね。5,000円でも6,000円でも払いたくなるようなショーを見せられるようになれたらなと。
浅見:そうですよね。
サトシ:でもまだ日本のサウナはそこまでいってない…。だって、僕がプレミアムアウフグースで1回200円ほどいただいていますけど…これが一回2,000円とかなったら払うかって言ったら絶対払わないじゃないですか。
浅見:でも今回利用させていただいた、スカイスパさんのカプセルホテル付きプレミアムアウフグースは3,200円(お泊まりアウフプラン※)で「安すぎでしょ!」って思いました。このプランなら5,000円でも全然アリだと思います。
※お泊まりアウフプラン=箸休めサトシのプレミアムアウフグースを受け、ととのいまくった後にカプセルでぐっすり眠れる宿泊プラン
サトシ:マジですか!
浅見:宿泊できてサウナ入り放題で…しかもサトシさんの人気アウフグースが確実に受けられる。そういうパッケージで見たときに、安いなって思いましたよ。
サトシ:けど、ほんとそれ最近のサウナブームだからそう言えるだけで…ちょっと前だったら「熱波で金取るってなんだよ!」って。ほんとここ1、2年なんですよ、今みたいにアウフグースや熱波が受け入れられるようになったの。
浅見:確かに。
サトシ:熱波なんてあって当たり前のもの…何を熱波師が調子乗ってんだって(笑)。
今、安いって感じてもらえるのはすごいうれしいですよね。そういう風潮…世の中の流れになってきてるのは。
浅見:少しずつ熱波師さんの存在がSNS上とかでも確立してきてると思うんですが、やっぱり良いサウナの裏には絶対「人」がいると思います。
サトシ:そうですよね、その「人」に会いに行くって感じですよね。「人」がサウナ室を演出してますもん。
だから湯らっくすも福永さんと西生社長とスタッフたちが作り上げるサウナだと思っていて、その人たちに会いに行ってるんですよ。担当表とかもあったり…だから担当表作るのはそういうことですもんね。
浅見:そうですね。担当表見て顔が浮かぶっていう。
サトシ:そう、だから「人」に会いに行くっていう。スカイスパには杉本さんってスタッフがいるんですが、僕よりちょっと人気が出てきて…杉本さんに会いに来る人がもう殺到。ただの熱波師じゃなくて杉本さんの熱波。
浅見:なるほど。
サトシ:ちょっと熱波師はタレント性も兼ね備えなきゃいけない。
浅見:ファンが付けば強いですよね。
サトシ:強いですね。「あの人が演出したサウナが好きだからサウナに行く」みたいな。要はかなり緻密なコミュニケーションなんですよね。途中、お客さんに向かって水まいて気持ちよくさせたりとか。
浅見:途中の水はやばい。ほんとに気持ちいい!
サトシ:緩急をつけるテクニックは人気です(笑)。
アウフグース世界大会への夢
浅見:今まさに注目され始めている熱波・アウフグースですが、海外では世界大会も開かれているんですよね?
サトシ:そうですね! アウフグース発祥の地ドイツで行われています。でも、世界大会出るには日本で予選をやらないとなんですよ。予選を開催するにも100人規模のサウナ室で、出場選手もたくさんいないといけない。
浅見:100人! さすがにそんなサウナはまだ日本にはないですよね…
サトシ:ですね。サウナ室がないのもそうですけど、熱波師がまず少なすぎる。だから熱波検定とかがあるのは、すごくありがたいことなんです。
でも、資格を取得しても実際にその後練習したり披露したりする受け皿が少ない。そう言った意味じゃテントサウナがいっぱい出てきたことはすごい嬉しいんですけど、もっともっとサウナ施設が必要ですよね!
浅見:100人規模のサウナってどんなサウナでなければいけない、みたいな基準ってあるんですか?
サトシ:100名入れるのは当然ながら、プロジェクションマッピングができる機材とか音響設備がしっかりしてるとか。もはやスタジオです。
浅見:おお、ライブハウスだ。
サトシ:そうそう! 光や音の演出も採点項目なんで…。だから例えば、今スカイスパで予選やって「はい優勝しました!」って世界大会行っても、他の国はプロジェクションマッピングあるわ音響ガンガンだわで、もう絶対負けるじゃないですか!!
浅見:絶対負ける!(笑)
サトシ:だから熱波師ってただ仰げばいいだけじゃなくて音もあと光も映像とかも、自分で作って演出して。
例えば日本ぽい演出をするなら、サムライ日本みたいな。出囃子の動画を作るとか…海外では、そういう演出をしているんですよね。さらに場面ごとに香りも変える。静かなところは”ヒノキの香り”とか…ちょっと情熱的なところは”薔薇とかローズマリー”とか。演出が練られているんです、ほんとに。
ドイツで行われているアウフグースの様子
浅見:もう、空間芸術ですよね。
サトシ:そうそう空間芸術。だから僕、アウフグースは”最高のエンタメ”だなと思って。目でも楽しめて、香りも楽しめて、且つ熱も楽しめて、そして最後は水風呂にも入ってととのって、しかも健康にもいいって。最強のエンターテイメントになるなって、ずっと感じていますね。
だけど、なかなかそこまで踏み込めていないのはサウナ室の環境がないってことだと。
浅見:超4Dのエンタメですね! そうなると、チームじゃないとできないですよね。音響担当、映像担当、熱波担当みたいな。
サトシ:もうライブっすよね。
浅見:ライブですよね。バンドですよね。世界大会は今どれくらいの国数が参加できてるんですかね?
サトシ:今ヨーロッパを中心に16カ国とかですね。
浅見:結構多いんですね!
サトシ:最初ドイツだけだったんですけどどんどん広まっていって…今はポーランドが一番強いんです。ドイツが抜かれちゃって(笑)。
逆にフィンランドは頑なにそういうのはやらないって!
浅見:なんとなく分かりますね(笑)。フィンランドではサウナが生活の一部なので。
サトシ:今度ポーランドにできるサウナは300人規模で、もはやコロシアムみたいな。真ん中に超でかいサウナストーブがあって周りはスタジアム席。野球場みたいに観客席で見るだけじゃなくて、真ん中にいる熱波師から熱と香りが送られてくるわけですよ。
浅見:超没入体験ですね! 見るだけでなく、自分もその作品の中のひとつになる。
サトシ:なれるということですよね。そこの演出もできるのは、アウフグースの醍醐味と考えなきゃいけない。超楽しいですよ、それは。
箸休めサトシのアウフグースとお笑いの共通原点
浅見:サトシさんって芸人でもいらっしゃるじゃないですか。お笑いとアウフグースって共通点があったりするんですか?
サトシ:完全にありますね。初めて熱波師をやったとき、サウナ室入ってみて、お客さんが全員僕のことを見てるんですよ。みんな僕の話聞いてくれるから、これマジで劇場じゃんて思って。
もともと僕、地下芸人やってたから、お客さんが1人とか2人しかいないところでネタやっていて、ウケてたかどうかはわからずで…。でも、サウナ室入るとと否が応でも熱波師の方を見るじゃないですか。
これいいなと思って、もっと規模を大きくして劇場サウナにして、それこそ劇団四季みたいにできたら、すごいいいなと思って。
浅見:サトシさんの中で熱波師でも芸人でも、何がモチベーションになってるんですか?
サトシ:やっぱり、直で反応が返ってくることですね。
浅見:ダイレクトに伝わる。
サトシ:社会人時代、営業をやっていたんですよ。大企業でホームページを作る仕事をしてたんですが、成績上げても給料あんまり変わらないし、喜んでいる人の顔がみえない。何のための仕事なんだろうと思った時に、お笑いの養成所のオーディションがあって。
高校の時に芸人になりたいって思ったこともあったので、試しにそのオーディションを受けたんです。
※箸休めサトシさんの半生は、自身の著書「僕の墓石はサウナストーン」をぜひ合わせてご覧ください。めちゃくちゃおもしろいです。
浅見:チャレンジしたんですね。
サトシ:そこで、自分が時間をかけて作ったネタを先生に見てもらったら、めっちゃ笑ってくれたんですよ。「俺が作ったネタを目の前でめっちゃ笑ってくれるよ!」って、こんなわかりやすく反応が返ってくることってないなあって思って、それで芸人を始めたのがあります。
直で反応が返ってくるのはお笑いもアウフグースも一緒で。自分で練ったものをアウトプットして、反応が直で返ってこないと、幸せを感じられない。
浅見:なるほど。劇場でネタをやるのとサウナ室でアウフグースをやるのとは、どういう違いがあるんですか?
サトシ:自分が練り込んできたものを表現する。それでいうと同じなんですよね。ただ、今サウナブームじゃないですか。
浅見:はい。
サトシ:僕が行ってアウフグースすれば、お客さんはすごいよろこんでくれるんです。超ホームなんですよね。だけど、お笑いライブは、アウェイでマジできついです(笑)。お笑いライブは何組も出るから、興味ない人には全く興味ない。今のサウナブームの中だと、僕の事に興味をもってくれて、受けてくれる人がいるんで、そこが違いますね。
浅見:なるほど。
サトシ:でも10年前に熱波師やっていたときは、そもそも熱波や僕に興味ない人ばかりだったので、「お願いします受けてください」って土下座しながら頼んで、お客さんにちゃんと説明して。なんで、土下座してたのかわからないんですけど(笑)。
浅見:お笑いもアウフグースも同じ原動力だけど、手段がアウフグースになったことで、より伝わりやすかったり、反応を受け取りやすくなったんですね。
サトシ:それはあると思います。いろんな場面でその場を盛り上げるのは得意だったので。向いているなっていうのはあります。
インタビュアー・執筆・編集/浅見 裕
写真/M.RYOHTA・浅見 裕
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