サウナ2.0

サウナムーブメントの作り方。秋山大輔(サウナ師匠)

ー 3つのステップで仕掛けたサウナムーブメント

雑誌サウナランドでお届けしたコンテンツの一つ「サウナ2.0 サウナをアップデートせよ」。さまざまな業界にいるサウナーたちが、今後のサウナの可能性を考察していく企画です。

今回は、過去、東京ガールズコレクション(TGC)やUltra Japanなどの大型イベントに携わり、「CORONA WINTER SAUNA」や「SAUNA FES JAPAN」、「RoofTop 37」などのサウナイベントのプロデュース、サウナ専門ブランド「TTNE」を立ち上げたサウナ師匠こと秋山大輔さんに、ムーブメントの起こし方や今後のサウナトレンドなどをお話しいただきました。

ムーブメントを設計する3つのステップ

サウナをもっと広めたいと思ったきっかけは、相方の“ととのえ親方”(松尾大氏)と行ったヨーロッパサウナツアーでした。フィンランドを中心に回ったんですが、そこで全く違う景色を見てしまったんですよね。

日本のサウナのイメージは、「460円の銭湯に併設されている、おじさんが我慢比べをする場所」。けれど、ヨーロッパは違った。

単価は高く、日本円にして6000円くらい。スイスだと1万円超えのところもありました。客層も、子供や女性もいて幅広い。犬も入ってましたからね。また、デートや女子会の場所として使われているのも面白いなと思いました。

それを見て、日本のサウナはブランディングがもったいないなと感じたんです。北欧では若者を中心に女性や子供など幅広い層に受け入れられているスタイリッシュなコンテンツなのに、と。

そんな状況を打破するために、真逆のものをぶつけようと考えました。これは僕の中でのPRの基礎なんですが、違和感を意図的に生み出さなければ世の中に認知されません。そこで、今までサウナのメイン客層ではなかった富裕層や若い女性にターゲットを絞ってブランディングをしていこうと決めました。

もともと東京ガールズコレクション(TGC)やUltra Japanに携わっていたこともあり、仕掛けてムーブメントにするノウハウは熟知していました。具体的には3つのステップです。

ステップ1はファッションと結びつけること。ファッションは単におしゃれという側面だけでなく、アイデンティを示す機能もあります。例えばサーファーはサーフブランドを着ることによって自分はサーファーだと示します。そんな風にサウナブランドを身につければ、サウナ好きだとアピールできる。すると「実は僕も好きなんです」と会話のきっかけが生まれる。ある意味罠を仕掛ける感じですよね。「俺はサウナーだぞ、食いついてこい!」って。

ファッションが浸透していくと、だんだんコミュニティができてくるんですよ。これがステップ2です。サウナ好きというのが可視化されると、「一緒にサウナ行きましょう」となりやすい。ゴルフやサーフィンだとまず道具を揃えることから始めなきゃいけないのと、気持ちいい状態に到達するまでにはスキルが求められる。サーフィンだったらそもそもパドリングがうまくいかない、ゴルフだとミートがうまくいかないから嫌になってしまうことが多い。

一方、サウナはなんの道具もスキルもいらない。手ぶらで行って、サウナと水風呂に入れば気持ちよくなれる。すごくハードルが低いんですよね。

そして最後、ステップ3。コミュニティが形成されたら、あとはその中からブームの火付け役が徐々に出てきてさらに広まる、という流れです。

SAUNA FES JAPANの舞台裏

SAUNA FES JAPAN」はもともと、『サ道』のタナカカツキさんから引き継いだ形でスタートしました。当初は「日本サウナ祭り」というイベントだったんですが、年々参加者が増えてもう手に負えないと。だからイベントのプロの僕に任せたい、180度変えていいから、と言われて。ここではTGCのノウハウを全て取り入れました

まずは名前。海外にも持っていけるコンテンツにしようということで「SAUNA FES JAPAN」に変更。フィンランド大使館の後援や多数企業による協賛をつけ、コンテンツは体験型の展示会に。最終的に全部で25ブランドが集まりました。

TGCではモデルさんやタレントさんがランウェイを歩きますが、サウナフェスはタナカカツキさんやととのうの生みの親の濡れ頭巾ちゃんにステージに上がっていただきました。サウナ界のレジェンドの方々ですよね。

僕は今42歳なんですが、彼らは一つ上の世代で、今よりずっとフィンランド式サウナが浸透していなかった時代から異端児と言われながらも頑張ってきた方たちです。

タナカカツキさんは漫画を、濡れ頭巾ちゃんはブログ「湯守(ゆもり)日記」を通してサウナの魅力や「ととのう」という言葉を広めていらっしゃいました。他にもこの世代にはウェルビーの米田行孝さんやスカイスパYOKOHAMAの金憲碩さんがいて、サウナ業界を改革してきた、いわば「王・長嶋世代」なんです

このサウナ文化をもっと広めていくためには世代を超えた交流が必要だなと感じたので、様々な世代のプロサウナーやサウナブランドにイベントに参加してもらえるようにお願いしたんです。調整はめちゃくちゃ大変でしたけどね(笑)。

けれど、おかげさまで600人の枠に対して3600の応募が来て、初年度からかなり倍率の高いプレミアムなイベントになりました。ちなみに2020年はフィンランドでも開催する予定だったんですよ。「SAUNA FES JAPAN meets Finland」と題して、フィンランドのサウナイベント「SAUNA REGION WEEK 2020」に日本を代表して参加することになっていて。残念ながらコロナで延期になってしまいましたが、年々スケールもコンテンツもアップデートしていくので、今後の展開を楽しみにしていてください。

目標達成率は「37%」。アイデアはまだまだある

僕は「サウナはエンターテインメントだ」というのを発信して、サウナ業界に還元したいとずっと思ってて。サウナに興味がない人たちを、どうサウナに片足を突っ込ませるかを常に考えて活動しています。

ただ、サウナをエンタメ化することは37%くらいしか達成できていません。今年は「RoofTop 37」という完全紹介制・期間限定のシークレットサウナや、1人で楽しむ「ソロサウナ tune」などをリリースしましたが、まだまだアイデアはいっぱいあります。ただ、やみくもにリリースするのは違うな、と。時代の流れの中で、今だ! ってタイミングで差し込んでいく方がいいな、というのが感覚的にあって。だから常にアイデアはストックして、ここぞという時に形にしていきたいと思っています。

今後のトレンドとしては、2019年末に予測した「女性サウナー」と「サ旅(サウナ旅)」が引き続きキーワードになると思います。女性サウナーに関して今年かなり衝撃だったのは、男性専用サウナ施設のレディースデーイベントで、予約枠が即完売、当日も行列がすごかったこと。マーケットのポテンシャルが顕在化したなと感じました。

サ旅については、地方創生を狙っていくという点でもトレンドになると思います。その上で今僕は「テロワール」に注目しています。テロワールとはワインにおけるブドウ畑を取り巻く自然環境要因のことで、気象や土地や造り手など様々な要因によってワインの個性が決まる、という考え方です。これはサウナでも同じだと思っていて。

水風呂の水源、薪に使う木、サウナストーン用の溶岩、サ飯の食材など、全てその土地でしか楽しめないものを提供すれば、それを目的に訪れる人がさらに増える。テロワールという考え方をもとにしたサウナが増えるんじゃないかなと予想していますし、僕自身ももっと仕掛けていきたいですね。


秋山大輔/サウナ師匠
20代よりサウナに開眼し、国内外の様々なサウナを経験。サウナの母国フィンランドをはじめ、北欧を中心とする10カ国40サウナを体験するEUサウナツアーや、NYのファッション系サウナなど7サウナを巡るNYサウナツアーを敢行。サウナ専門ブランド「TTNE」の立ち上げ、「ととのえの日」記念日制定、「CORONA WINTER SAUNA」監修、「サウナシュラン」立ち上げ、「日本サウナ学会」設立、「SAUNA FES JAPAN」や「SKYTREE SAUNA」、「RoofTop 37」プロデュース、「ソロサウナ tune」サウナ監修等、次々にサウナ関連のプロジェクトを仕掛ける。最近では、サウナで汗をかくだけでなく、サウナプロデュースやTV、新聞、ラジオ、雑誌、WEBといったメディア活動を通じ、サウナの為に汗をかいている。


文:菅原 啓太篠原 舞
編集:黒羽大河

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